16世紀にフランスで著された音楽と舞踏の指南書、『オルケゾグラフィ』(トワノ・アルボー著)について紹介、来年の定期演奏会で『カプリオル組曲』を弾くかもしれないので、その原典の『オルケゾグラフィ』を読んでいるという話、兵隊の行進で音楽の基礎理論が解説されている話とやってきて、今回はやっと、『カプリオル組曲』についての記事になります。
『カプリオル組曲』は6つの舞曲で構成されていますが、1曲目は「バス=ダンス」です。やっとご婦人の手をとってダンスが始まるのですが、ずいぶん暗くて重たい曲です。この曲もニ短調、『オルケゾグラフィ』が著された当時の言い方だと「第3旋法」あるいは「フリギア旋法」と呼ばれていた調性で、自然に怒りの感情を呼び起こし、アレクサンドロス大王を猛り狂わせたという調性です。なぜ「娯楽の踊り」の最初にこんな暗い舞曲をもってくるのか。それには理由がありそうです。
カプリオル
さて、私たちは今、広間の端に立っています。楽士たちはバス=ダンスを奏し始めます。どのような動きで、私たちは進み始めればよいでしょうか。
アルボー
最初の動きはレヴェランスreverence(挨拶)です。それは大文字Rで表されます。2番目の動きはブランルbranleでb、3番目の動きは2つのサンプルsimples(シングル)でss、4番目の動きはドゥブルdouble(ダブル)でd、5番目の動きはルプリーズrepriseで小文字rで表されます。
カプリオル
標準的な普通のバス=ダンスを踊るのに必要なものはこれですべてですか。
アルボー
バス=ダンスにも、バス=ダンスのルトゥール(折り返し)にも、他の種類の動きはありません。いま述べた種類の動きを何回も繰り返すのです。
…
バス=ダンスの動きに関する覚え書き
R b ss d r d r b ss ddd r d
r b ss d r b c.
カプリオル
最後に置かれたcという文字は、どんな意味ですか。
アルボー
それは相手のご婦人に対して行うコンジェcongé(別れの挨拶)のことで、ご婦人の手をとったまま軽くお辞儀をします。
pp.25v-26r
つまり、5つの動きと最後の挨拶さえマスターすれば踊れる簡単な踊りだから、最初にもってきたのです。踊り方については長くなるので引用しませんが、跳んだり跳ねたりの複雑なステップはなく、『オルケゾグラフィ』を読めば私でも踊れそうです。当時の踊りを書き記すことで後世に残そうとした著者トワノ・アルボーの面目躍如です。
それにしても暗くて重い。先生に訊くと、現代の楽器で演奏するから必要以上に重くなっているのかもしない、とのこと。前の記事で紹介した兵隊の行進のように、当時から一般に用いられていたであろう笛や太鼓で演奏すると、それほど暗い感じにはならないのかもしれません。
ちょっと試してみました。
どうですか。わりと牧歌的ですね。まだ練習し始めたばかりなので、どんなふうに仕上がっていくのかわかりませんが、個人的にはあんまり重い感じにはしたくないように思います。
アルボー
実はバス=ダンス全体は3つの部分から成るのですが、最初の部分が今言ったバス=ダンスで、2番目の部分がそのバス=ダンスのルトゥール、3番目すなわち最後の部分がトルディオンと呼ばれます。…
p.26r
『カプリオル組曲』では、2曲目がパヴァーヌ、3曲目がトルディオンです。パヴァーヌはバス=ダンス以上に荘重な雰囲気の曲ですが、トルディオンは軽やかで生き生きとした拍どりになります。
次回の記事は、パヴァーヌについての蘊蓄の予定です。
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