来年の定期演奏会で『カプリオル組曲』を弾くかもしれないので、その原典の『オルケゾグラフィ』を読んでいるという記事の続き。
『カプリオル組曲』は、「Basse Danse」という舞曲から始まるのですが、『オルケゾグラフィ』は、踊る前にいろいろ音楽の基礎についての講釈があります。邦訳版から引用します。
アルボー
ではご要望に応えて、それについて私が知っていることをお話しましょう。こうした題材を扱ったり実際に踊ったりするのは、いま69歳でもある私にはふさわしくないかもしれませんが。
最初に戦いの踊り、その後で娯楽の踊りについて話しましょう。戦いの行進の際に使われる楽器としては、ブッキーナとトランペット、リテゥウスとクレロン、ホルンとコルネット、ティビア、フイフル、アリゴ、太鼓、それにこれらの楽器に類似したもの、同じく今言った太鼓に類似したものがあります。
p.6v
アルボーの講釈は、まず兵士の行進の拍取りと太鼓のバトマン、つまり太鼓の打ち方の話から始まります。ここで、いまの四分音符(形は二分音符に似ていますが)にあたる「ミニマ」、八分音符(これも形は四分音符に似ています)にあたる「セミミニマ」、16分音符(くどいようですが、形は八部音符に似ています)にあたる「フーサ」の説明があります。下がその説明なのですが、四分音符は「タン」、八分音符2つのところは「テレ」、16分音符4つのところは「フレー」とかフリガナがついています。
『オルケゾグラフィ』には原典としては、4つの版があることが知られていて、ヨーロッパの名立たる図書館などに所蔵されています。そして、この原典を複製した版がいくつか作製され、さらにそれらを写真に撮って複製した「ファクシミリ版」というのが20世紀後半から作られるようになりました。ここで紹介している画像は、米国議会図書館のデジタルアーカイブで公開されているもので、1589年に刊行された原典を撮影して作製されたファクシミリ版がもとになっていると思われます。原典に近いものがこんなに簡単に世界中から閲覧できるのはありがたいことです。
邦訳版を読み進めていくと、兵士の行進や戦闘の際の太鼓のリズムについての説明が続き、そのリズムに合わせた笛の吹き方の説明が始まります。
カプリオル
これで私も多分、[太鼓の]バトマンと拍取りに合わせて、軍隊の歩調でうまく行進したり踊ったりできそうです。しかし、どうして鼓手には笛吹きがひとりふたり付いているのですか。
アルボー
私たちがフイフルと呼んでいるものは、6つの孔のあいた小さな横笛のことです。…このフイフルの代わりに、アリゴと呼ばれるいわゆるフラジョルとかフリュトが使われることがあります。…
カプリオル
フイフルやアリゴを吹くのに、何か特定の方法があるのですか。
アルボー
太鼓の音に合わせて区切りを付けさえすれば、奏者は好きなように吹いてよいです。でも、音楽家が第3旋法と呼んでいるフリギア旋法は自然に怒りの感情を呼び起こすので、リディア人が戦闘に赴くときに使ったと言われています。歴史が記すところによれば、ティモテオスがティビアをこの旋法で演奏すると、アレクサンドロス大王は戦闘に赴くために猛り狂ったように立ち上がりました。…彼はこの方法でインド人を征服したのです。インド人たちは、わめき散らしながら無秩序な群集の状態で前進してきたので、簡単に蹴散らされて負けてしまったのです。
pp.17v-18r
この対話の後で旋律のある譜表が示されます。「音楽家が第3旋法と呼んでいるフリギア旋法」というのは、注釈や解説をいろいろ読んで、たぶん、いまのニ短調ではないかと思われます。そう思って、書かれている譜表から旋律を再現してみました。
いろいろわからないことを適当にやっているので、本当にこれで合っているかどうかは疑わしいのですが、アレクサンドロス大王を猛り狂わせた旋律としては、なんだか牧歌的というか…。まぁ刺激の少ない時代だったのでしょう。
次回はいよいよ『カプリオル組曲』について書きます。
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