2016年8月24日水曜日

発表会の基本に立ち返る

 こうして発表会本番の日を迎える。リハーサルの持ち時間は7分。第2楽章を普通のCDのようなテンポで弾けばなんとか最後まで弾けるのだが、もうそれはないものとした。重点はピアノの先生への合図。これだけできればいい。そして間違えてもオロオロしない。しれっと休符の振りをして途中から入る。といっても何か間違えたことはすぐにわかるのだが、どれぐらい間違えたかはわからない。 予定通り、第2楽章の半分を少し過ぎたところで「チン」とベルが鳴ってリハーサルが終わった。

 会場では、本番の会場のほかに練習用の部屋が用意されていて、代わる代わる練習をする。不安なところを何度も繰り返し練習する人もいるのだが、私の場合はそういうことをすると間違える練習にしかならない。不安なところは少し前から弾いて、駄目だった時の誤魔化し方を練習しておく。これは、そうしておけば本番で間違わないなどといった「おまじない」ではない。もっと現実的で真剣な練習なのだ。

 そうこうしているうちに集合写真の撮影があって、いよいよ本番が始まる。
 今回はここでいつもと違う行動をした。
 本番を最初から最後まで聴くことにしたのだ。

 娘がまだ小さいときのこと。初めての発表会はスタジオに椅子を並べて、生徒とその親20人ほどが所狭しと聞き入る中での発表会だった。そのとき、娘とした約束は
・ ちゃんと練習して一生懸命弾くこと
・ 間違えても最後まで弾くこと
・ 他の人の演奏もちゃんと聴くこと
中には、自分の演奏が終わると隣の子供とこつき合ったりする子がいるなかで、うちの娘は最後まできちんと演奏を聴いていた。ところが、自分自身はというとこの3番目の約束が、いままでは守れていなかった。自分の出番までの間、少しでも練習をしておこうと、練習室で必死になっていたのだ。そういうのは私だけではない。たいていの人がそうしていたように思う。

 今回は、出演者も少なく、会場も狭い。自分は最後の方だが、どうせ弾くなら、下手だけどみんなに聴いてほしい。そう思うなら、まず自分がちゃんと他の人の演奏も聴こう。そんなふうに思った。
 それに今回はスタジオの奥さんも開催するかどうかでずいぶん悩んでおられた。こうして開催されるのだから、やっぱり生徒一同、それに感謝して、何としても成功裏に終わらせないといけない。それじゃ、「成功」ってなんだろう。もしろん、一人一人の生徒の演奏のレベルが高くなることを望んでおられないわけではないが、その努力は当日の練習で稔るものでもない。楽器は違えど、またレベルは違えど、お互いに練習の成果を聴きあって励ましあい、またこれからも続けていこうという思いを共有してこその「成功」だ。
 そう考えると、まずは発表会の間、ちゃんと他の人の演奏も聴くというのが、いつもお世話になっているスタジオへの恩返しだ。
 なんて、そこまでは深く考えなかったけれど、とにかく全部聴くことにした。

 聴いていると、やはりそれぞれのお人柄がよく出てくる。一人一人が楽しんでおられることが伝わってくる。やっぱりこれだ。これがこのスタジオの発表会のいいところだ。

(つづく)

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