2015年10月12日月曜日

本番終わる

 アンサンブルの本番が終わった。
楽しかった。
 ソロの発表会とはまったく違う興奮があった。これはハマる。

 まずは前日。プロの方や賛助出演の学生オケの方も来られてステージ練習。昔からアンサンブルにおられる方によると、この前日練習がいちばん面白いらしい。本番はいろんなことが起こるので、とても楽しんでいる余裕はないとのこと。おいおい。

 ヴィオラパートにも頼れる方が来られてトップの席に座られる。とにかくその人と同じように弾く。いままでの練習で、他のパートは「ここは上げ弓だ」「ここはスラーだ」とパート内で相談して、それぞれ楽譜に書き込んでいるときに、ヴィオラパートはお菓子食べながら楽しくおしゃべり。「いいんですか?」と聞くと、「いま決めておいても、どうせ前日練習で変わるから」とのこと。うーん、新参者の私には、説得力があるのかないのかもわからない。
 そして迎えた前日練習。予て言われていた通り、トップに合わせてボウイングしようとするのだけど、楽譜は見ないといけない、指揮は見ないといけない、トップのボウイングは見ないといけない、となると、なんか自分が何しているのか分からなくなってくる。それにボウイングが変わるとフィンガリングまで怪しくなってくる。
 今回の本番では、ヴィオラは何と7人の大所帯。こんなマイナーな楽器を7台も同時に見ることは珍しいのだが、その中には賛助出演の方もおられて、いったい誰にボウイング合わせたらいいの? ってことを仰っておられる。少なくとも私ではありません。古株の人は「うちのアンサンブルもとうとうボウイングを気にするところまで来たか」などと感慨深げ。気にしていないのはヴィオラだけだったりするのだけど、その会話を聞きながら、
明日は何も気にしないぞ
と心に決める。

 その日、帰ったのも遅かったのだが、本番前の軽い躁状態で眠れず(遠足の前みたいなやつね)、ちょっとふわふわした感じで当日を迎える。このふわふわした感じが、いつもの発表会とは全然違う。発表会のときは、練習でまったく弾けない、というところは基本的にはすべて解消して、とりあえず一度は完璧に弾けた、という状態で本番を迎えるのだが、アンサンブルの場合、メンバーひとり一人が弾けるかどうかにはお構いなしに本番を迎える。今回の私の場合でいうと、弾けないことを前提に本番を迎えているのだ。そして、そういうところはもう弾けないものと悟りきっている。まったく焦っていない。

 控室の準備をしたりプログラムの折込を手伝ったりと、これもソロの発表会にはないような準備が進んで行く。そのうちに、ふわふわしていたのが、だんだん足が地面に付いてきて、だけど普段と比べるとはるかに高いところに自分がいる気分になってくる。弾けなかったらどうしよう、じゃなくて
弾けなくても大丈夫
という確信からくる余裕が、調和のとれた興奮状態と緊張状態を作り出してくる。いい感じになってきた。

 こんな感じでリハーサルを迎える。ここの先生は普段からあまり細かいことは仰らないのだが、リハーサルでは、
大丈夫 楽しんでください
というようなことを仰っている。こういうのは助かる。弾いている方は、弓がバラバラなのも分かっているし、弾けていないところがあるのも分かっているのだが、そこを本番前にどうこう言われて何とかなるものでもない(なんとかしろよ!ってか?)。私は落ちますからみなさんよろしく、それと弓が気になる人は私に合わせてください、と心の中で呟いて楽しむことに決めた。

 略礼服に蝶ネクタイというウェイターのような衣装に着替える。女性は白のブラウスに黒のボトム。なんか美人が多くて緊張してくる。
 ここのアンサンブルは年配の人が多くて、お孫さんとかが見に来たりしている。お孫さんの発表会をお爺ちゃん、お婆ちゃんが見に行くのとは反対だ。あとで聞くと150人以上は入ったらしい。普段の発表会だと、数十人のオーディエンスの前で緊張してしまって、練習で出来たはずのことが出来なかったりするのだが、今日はその四・五倍のお客さんの前でも、不思議と緊張していない。 最初はゆったりした曲から始まる。この曲の途中で、ちょっと弓が震えたところがあったのだが、
誰もあんた見てないよ
と自分に言い聞かせると、すぐにその震えは止まった。

 難曲、ブランデンブルク協奏曲。油断していると、練習でノーマークだった場所で楽譜を見失ったりもしてしまったし、やっぱりここは弾けなかったよね、というようなところもあったのだが、最後まで気持ちをキープして弾ききることが出来た。客演のあるオーボエコンチェルトは、いままでで一番いい出来栄えだったと思う。
 前半が終わると、誰もが「山場は越えた」という感覚になってくる。どの方の表情にも余裕がある。
 後半は、個人的には結構気に入っているテレマンから。比較的短い曲が何曲もある組曲なので、変化があって面白い。それと、鍛冶屋のポルカだとか、モーツアルトのドイツ舞曲といった小品が続く。こういうのは笑って弾かなきゃ。
 最後はチキチキバンバン。この曲はヴィオラが「ジャカジャカジャンジャン」と弾いて締める。
ドヤ顔 決まった!

 終わってみると、新参者の私がいちばん楽しんでいたように思える。いいの、いいの。楽しみは減らない。思えば5月ごろに見学をさせていただいてから、アンサンブルのみなさんには本当にお世話になった。こうして自分が楽しんでいることは何よりの恩返しだと思う。今日、初めて会った賛助出演の大学生も、ずいぶん遠い田舎町で年配の人ばかりのアンサンブルに来て、最初はちょっと不安だったり戸惑いがあったりしたかもしれないけど、いっしょに楽しもう、という気持ちが伝わればステージの上がひとつになってくる。そういうのが客席にも伝わっていくと思う。

 アンサンブルの練習に参加するようになった最初のうちはぜんぜん弾けなくて、どうなることかと思ったものだ。こんなに弾けないのに、温かく迎えてくださるみなさんに何とか応えようと、この数ヵ月間、睡眠時間を削って人知れず練習に勤しんだりもした。アンサンブル練習の場所が遠いのはたいへんだったが、行くのが面倒だと思ったことはなかった。こうして終わってみると、本当に来て良かったと思う。
 何かを楽しもうと思うと、何かちょっとは無理をしないといけないものだが、片道2時間弱の距離を毎週というのを、この先もずっと続けるのかとなると、ちょっと気が重い。今日の本番まで、と思うからこそ続けることも出来たのだが、いったんは退会して、またやるかどうかは考えてみようと思う。
 お世話になったみなさんにお礼を言って、この数ヵ月間、通い続けた街を後にした。
 いい街だった。
 次は移住かな?

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