2025年4月19日土曜日

励まされた発表会

  先月末に発表会があった。

 いつもなら、終わったその日にこのブログを更新するのだが、前回2月の記事でも少し書いている通り、仕事が詰まっていて私生活が全くない状態が続いている。災害級の繁忙と言っていい。自分が学校の先生で、授業中に突然地震が起こって、生徒の対応に追われているところに、避難所になった学校に近隣の人たちが集まってきて、昼となく夜となくその対応に追われ、校長は好き勝手なことを言っているし、役所からもいろんなことを言ってくるし、善意なんだろうけれどボランティアの対応にも手が掛かる。そんな状態を想像してほしい。深夜までの闇残業と休日の闇出勤が常態化していて、過労死という言葉を肩にずっしりと背負ってこの2か月以上を過ごしてきた。レッスンのある日は辛うじて練習はするのだが、レッスンが終わると夕方から出勤して日が変わるまで働く。発表会の日も、自分の発表が終わるとそそくさと立ち去って闇出勤。本当はゲストの演奏も、その後にある子供たちの発表も聞きたいのだけれど、仕事のことが気になってそれどころじゃない。そんな発表会だった。

 けれど、発表会に出て本当に良かった。

 休みもなく毎日深夜まで残業しているから、練習もけっして十分にはできていなかったけれど、もしこの発表会がなかったら、そんな不毛な毎日に完全に埋もれてしまっていたはず。ハイジを励ますセバスチャンのつもりで弾いたのだけれど、励まされたのは自分だった。やることなすことドジばっかりで、ロッテンマイヤーさんに叱られてばかりいる毎日。こんな仕事辞めてはやくアルムの山に帰りたい。けど自分がいなくなったら困る人がいるからそれもできない。そこに優しいクララのおばあさまがやってきて、普段はさえない召使のセバスチャンに「あの曲を聞かせておくれ」といってピアノを弾き始める。ヴィオラを取り出すセバスチャン。そのセバスチャンになったつもりで弾いたはずだった。

 ピアノの先生にもそのイメージはお伝えしていたのだが、この面倒くさいリクエストを好意的に受け止めていただいて、お付き合いをいただいた。弾き終わった後、振り返ると、満面の笑顔で讃えてくださる。舞台袖で「また伴奏に呼んでくださいね」と言ってもくださる。いや、こちらが「また伴奏してください」とお願いしないといけないのに。

 合奏のアイネ・クライネ・ナハトムジークも楽しく弾けたし、他の生徒さんからも「楽しそうでしたよ」と言っていただいた。

 生徒さんの中でも、子供のときから長く続けている人のレベルは圧巻で、ベートーヴェンのスプリング・ソナタやバッハの無伴奏パルティータなどの難曲が次々に披露される。でも、そういう人ばかりではなくて、大人になってからヴァイオリンを手にして数年目というような人もいて、そういう人も堂々と演奏されていて、それぞれがヴァイオリンを楽しんでおられることがよくわかる。自分の演奏が上手か下手かと言われると、けっして上手な方ではないけれど、「ほらっ、こんなに楽しいですよ」ということを発表するという趣旨でいけば、けっこういいポイントが付くかもしれない。

 金賞はダメでも、審査員特別賞なら狙えるかも…

 ああ、まあ、そういう欲を出すとそれがすぐに演奏に表れてしまうのだけれど、でも、掛け値なしでほんとうにいい発表会だった。ハイジを励ますつもりで弾いたのに、誰よりも励まされたのは自分だった。本当にヴィオラを弾いていてよかった。


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