毎週通っているアマオケは弦楽だけのアンサンブルなのだが、ご指導くださる先生の誼(よしみ)で、大学の管弦楽団の現役の学生や卒業生がエキストラにやってくる。いちど一緒に弾いた人が、また行きたいと、卒業したあとも都合をつけてやってくるようなこともあって、それはそれで嬉しい。
昨年来、フルートを吹く人が、ぜひ、うちのオケで吹きたいと言っているらしく、それならばと先生にリクエストしたのが、アントニオ・ヴィヴァルディのフルート協奏曲 作品10の1番「海の嵐」。オケのみなさんにも受け入れていただいて練習に励んでいる。
ヴィヴァルディが活躍した頃のヴェネツィアは、地中海交易で栄えた港湾都市。商品を満載した、当時としては大型の船を、アドリア海に漕ぎ出し、大波をものともせず、富と出会いを遠い異国の街に求めていたはず。
第1楽章の、まるで音階練習のような旋律は、まさに、その大波の中を大型船が進んでいく様子を描写しているように聞こえる。空は晴れ渡り、風が帆を膨らます。細波の浜辺から大海原へ、旅の始まりを予感させる。
第2楽章は緩楽章。情景は一変して静かな入り江。月明かりが照らす海面をわずかに揺らす細波に、錨を降ろした船体もわずかに軋む。船員たちは、長旅の疲れを癒すために酒を飲み、少し酩酊しているのだろうか。
第3楽章は再び急楽章。ただ、もう一度、大海原に漕ぎ出すのではなく、朝の陽ざしを受けて、艀(はしけ)に商品を積み替えて陸揚げし、さらに内陸の街へと運ぼうとしている情景ではないだろうか。当時の港には岸壁はなく、大型船は沖合に停泊して、そこから荷物を陸揚げしたり、そこに荷物を積み込んだりするには、小型の船を使って陸地との間を往復したはず。
陸揚げが済み、新しい旅の準備が整った。さあ出発だ。
ヴィヴァルディのフルート協奏曲集 作品10は、6曲の協奏曲で構成される。この「海の嵐」はその第1曲。物語の始まり、旅の始まりをイメージさせる曲を第1曲に据えた理由は、なんとなく分かるような気がする。
フルートを吹いてくださる方とは一度もお会いしたことはないが、うちのメンバーの何人かは、別のステージでいっしょに弾いたことがあるらしい。私たちとの出会いに何かを期待して、ヴェネツィアの商人よろしく、大海原を渡るイメージで来ていただけると、なんだか嬉しいと思う。