2021年9月23日木曜日

家庭内引っ越し

 

 いろいろ事情があって、家の中で部屋を替わることにした。人生の中で何度か引っ越し(家の中での引っ越しじゃなくて、トラックで荷物を運ばないといけないような本当の引っ越し)を経験しているのだが、年齢とともに荷物も増えて、だんだんと引っ越しが面倒くさくなってくる。私の場合、読み終わった本だとか、町内会の役をやったときの資料だとか、そういうものを捨てない性分で、とにかく荷物がたまる。いやだって、町内会の役は輪番でまた回ってくるし、そのとき前やったときの資料があったら楽じゃん、なんて思ってしまう。大学生のころ、友人とちょっとカッコつけて夜遅くまで飲んだあと、そいつの家に泊めてもらったのだが、そいつの部屋には文庫本が2~3百冊もあった。そのとき太宰治を勧められて初めて読んだ。なんかこいつカッケーぞ、と思った。それ以来、実用書の類だとかマニュアル本だとか雑誌とかは別にして、とにかく買って読んだ本は残している。本も随分たまって本棚からも溢れていた。

 今回の家庭内引っ越しに備えてかなりの整理はした。まず、ノートの類をすべて捨てた。大学の講義ノートだとか、ちょっと難しい本を読んだ時の読書ノートだとか、そういうものって、将来、私がノーベル賞でも取ったら大都学記念館の貴重書庫に収蔵されたかもしれないのだが、もうこの先そんな賞を取ることもなさそうなので捨てることにした。本棚に入りきらなかった本は、廊下の壁をくりぬいて本棚を作り、図書館みたいに分野別に並べて収めた。文庫本も廊下の壁に、作者の五十音順に並べている。1年間、着ることのなかった服を捨て、何かの役に立つかもしれないと思っていたもの(町内会の資料を含む)を捨て、とりあえず荷物3割減ぐらいのダイエットをした。

 さてさて、捨てられないものの中に楽譜がある。以前に「バヨ会」と称して素人(だいぶハイレベルな方もおられたが)ばっかりが集まり合奏した曲だとか、発表会や演奏会で弾いた曲の楽譜だ。最近のものは蛇腹式のホルダーに入れて整理している。演奏会で弾くものは、予め、プログラム順に製本しているので「確かあの時に弾いたな~」という曖昧な記憶から「ほら、これやろ!」と、何度練習しても弾けなかったところに赤ペンで丸印をしていたり、音名やら指番号やらをやたら書きまくっている状態で出てくる。

 そういえば、3年ぐらい前にパッヘルベルのカノンを弾いたことがあったなぁ、という記憶から楽譜を手繰り寄せる。普通の弦楽アンサンブル(1st,2nd,vla,vc)の構成で弾けるように、ヴィオラを3バヨにアレンジしているやつだ。なんでこれを探したかというと、いつものアンサンブルレッスンの3人(ヴァイオリン×2+ヴィオラ)のうち、ヴァイオリンの1人がチェロに転向されて、いつか弦楽四重奏曲を弾こうという遠大な計画があって、とりあえずその第1歩としてパッヘルベルのカノンが課題曲になっているからだ。私がもらった楽譜は初心者用で、16分音符が一切ない。そうすると、1stヴァイオリンと3度でハモる山場のところがなくて輪奏にもならない。初心者用とはいってもヴァイオリンの初心者用なので、ヴァイオリンならファーストポジションだけで弾けるのだが、ヴィオラは5ポジまで出てくる。そんなところで苦労するぐらいなら、ポジションの上がるところはオクターブ下げてでも、16分音符の山場のところを弾きたい。

 そんなわけで、4年前に演奏会で弾いた楽譜を引っ張り出してきて練習することにした。

 ほら、こうやって役に立つことがあるからなかなか荷物が捨てられないのよ。