2017年2月25日土曜日

レッスンにも風が…

 去年の秋から紆余曲折があって、いま、『ヴィオラ名曲31選』(宮脇 薩乎 編,ドレミ楽譜出版社)の曲を見ていただいている。最初はスタジオの事務室の本棚にあったものを持ち込んで、その後しばらくはそれを使っていたのだが、先般、本屋さんに注文して取り寄せてもらった。奥付に「第2刷」と書かれている。つまり増刷されたものということだ。ヴィオラの楽譜にも一定の需要があるのだと思うと、ちょっと嬉しい。

 先生は、「じゃ、最初から全部いきますか」と仰ったのだが、最初のAve Verum Corpus(W.A.Mozart)を弾かしてあまりに酷かったので方針が軽く変換されて、途中にあるArioso(J.S.Bach)からすることになった。
 しかし、この1曲だけでは45分のレッスン時間が持たなくなってきて、3回目ぐらいに「何かほかの曲もやりましょうか」ということになり、たまたま目に入った「埴生の宿」も見てもらうことに。そしてそのあとは先生が最初に仰ったとおり、最初の曲から順番に見てもらうことにした。

 前回のレッスンで「埴生の宿」を卒業。先生の前で、自分で楽譜に丸を付ける。ま、なんとなく嬉しい。考えてみれば、いまの先生に丸をもらったのは初めてだ。昨年からずっとやっていた発表会の曲は、結局最後まで丸をもらえなかった。その前はアマチュアアンサンブルのステージで弾く曲を見てもらっていたのだけど、これも丸をもらえないまま本番を迎えた。教本でレッスンを進めているわけではないので、「ここまで出来たら次行きましょうか」というタイミングがないのだ(それ以上に、丸をもらえるレベルに達していないのが大きな原因なのだが)。その点、『ヴィオラ名曲31選』をやり始めてからは、これが教本の代わりになっていて、これが終わったら次はこれ、という感じになっている。それで初めてもらえた丸だ。

 最初にやり始めたAriosoはいまだに終わらない。けれど、その終わらないことが苦にならない。毎回、少しずつ違う課題が出てきて、それを解決すれば前よりも良くなることが実感できてきた。前は、いつも言われることは音程のことばかりだったのだが、最近は音程がよくなったのか、よくならないことが分かったのか、音程のことはさておいて、別の課題が出される。その中には、「弓をもっとたくさん使って」とか「強弱をもっと意識して」のように比較的わかりやすいものもあれば、「もっと音楽的に」とか「もっと朗々と」とか「もっと音のつながりを意識して」みたいな、消化するのに少し時間のかかるものもある。聞いたときは分からないが、練習しながら分かることもある。分からないまま次のレッスンを迎える時もある。そういうときは、一応努力した過程は口で説明して弾いてみると、何か別の言葉が返ってくる。なるほどそういうことかと頭では納得するのだけれど、実際にやろうとすると上手くできない。そしてまた練習。そんな感じだ。
 先週、ある人から
 ヴィオラらしい音が
 出るようになりましたね
 と褒められた。あ、ここにも風が吹いている。心地よい風。

2017年2月20日月曜日

ヴィオラに風が吹いている

 
 このクールはこのドラマを観るのを楽しみにしていた。家ではすっかりチャンネル権を奪われているので、ドラマのように毎週観ないといけない番組を観ることはほぼなく、まして、同じ時間に嵐のメンバーがメインパーソナリティをしている番組があるのだから、もう観られないものと諦めていたのだが、奇跡的に観ることができた。

 このドラマでヴィオラを弾いている高橋一生という俳優が結構ブレイクしているようなのだ。ヴィオラに吹く追い風を感じる。いつも心無いヴィオラジョークの逆風に晒されている身にとって、こんな心地よい風を感じることはない。

 このドラマの設定が、ある日、カラオケボックスで「偶然」出会った4人の弦楽器奏者がカルテットを組むというもの。まずここで、カラオケボックスで弦楽器の練習をするということが当然のこととして描かれている。ヴァイオリンケースを担いでカラオケボックスに行き、ひとりでフリータイムを申し出て、店員に嫌な顔をされた経験のある方は少なからずおられることだろう。時には断られることもある(大手Jカラオケ店は駄目らしい)。それがこんな風にごく自然にドラマの中に描かれているのだ。もうこれで何もビクビクせずに堂々と練習ができるというものだ。

 ちょっと補足だが、プロ奏者がカラオケボックスで楽器を弾くのは別に珍しいことではないようだ。筆者は8年前に、すでに宮本笑里がカラオケボックスでヴァイオリンを弾くのを知っていた。
http://6109.jp/emirimiyamoto/?blog=58777
 けっして、筆者の隣の部屋で弾いていたとか、筆者が宮本笑里にストーカー行為をしていたわけではないので誤解なく。

 そして、この高橋一生が演じる家森という男は、カルテットのメンバーの中でいちばん理屈っぽい。これはヴィオラ奏者に対するステレオタイプなのか。いやそうでもあるまいが、この理屈っぽいところがコミカルというか、結構ポジティブなイメージで描かれている。第一話の有名な「唐揚げにレモン」、第二あ話の「言葉と気持ちは違う」、第三話の「ボーダー被ってますよ」。いずれも、ドラマ全体のストーリーにちょっとしたスパイスをかける伏線になっていて、さらっと聞き逃すことができない。そして第三話の「学級崩壊」と「パチンコ屋」の話のうち、学級崩壊は第五話に見事に繫がっていく。
…あ、つい興奮してしまった。これ、ドラマを観ていない人には何のことかわからない話だが、こういうマニアックな話をさも一般的に誰もが知っているべきことのように話すことが、このドラマの中では前向きに(少なくともありがちなこととして)描かれている。

 そして第四話はヴィオラ奏者の家森を中心にストーリーが展開する。音楽で生きる夢を追いかけるために定職を持たないことが理由で妻に離縁された家森が、ヴィオラを叩き壊そうとするのを元妻に止められ「あんたはそれでええんとちゃう」と言われる。二度と会うことがない子供との別れ。そのまえに子供にヴァイオリンを教え、ステージで二重奏をする。なぜヴィオラではなくてヴァイオリンを教えるのか。そこにヴィオラ奏者の悲哀が隠されていることに気づいた視聴者はそんなに多くはあるまい。

 主演はファーストヴァイオリンの巻真紀を演じる松たか子なのだが、高橋一生が演じるヴィオラ奏者、家森の存在感は大きい。バラエティー番組への出演なども結構多く、かなりブレイクしているような印象だ。ここは大きな声で言っておきたい。

ドラマ カルテットで高橋一生が弾いているのは
ヴァイオリンではなくてヴィオラです。

見た目で区別がつかない人は番組ホームページでとか、こちらのページで確かめてください。