発表会以降、何を弾くのか定まらないまま、『ヴィオラ名曲31選』にある曲を、あまり目的もなく弾いている。難易度からするとそれほど高くないのだが、前回のレッスンでは
もっと音楽的に
という注文がついた。強弱とかそういうこともさることながら、「楽譜通りに弾きました」というのでは子供の発表会みたいだから、というのだ。
見ていただいているのはバッハのアリオーソ。
アリオーソというのは「歌うように」という意味だそうだ。つまり、弾き方の指示であってタイトルではない。そこでこれに題名を付けることにした。最初は歌詞を付けるつもりだったのだが、
歌は聞きません
と先生がおっしゃるので題名だけにしておいた。付けた題名が「暖炉の前で」。ロギングチェアで寛ぐ老人。その前では暖炉が燃える。別の部屋では、老人の子供や孫が集まって、米寿のお祝いの席を用意している。長かった人生を思い返しながら暖炉の火を見つめる老人。この暖炉もそういう老人の人生を見続けてきた。苦しかったこと、楽しかったこと。何かを成し遂げた満足感。それらの思い出の中で老人は満足げに軽い眠りに誘われる。
音楽性と言われて思ったのは、最初の音を出した時に、必然的に曲全体が予想できること。この曲の場合、最初は「シーーーー」と伸ばしているだけなのだが、張り付けた動画を聴いていると、その音を聞いただけで、その次は「ドレミラーーー」という展開への期待が浮かび、そこからあるべくしてどんどん次の音が出てくる。そういう感じに弾くことだ。
そのためには暖炉を思い浮かばせるように音を伸ばさないといけない。最初にアタックを入れず、ビブラートを少しずつ大きくしていき、次の音を導き出す。
すべての音というわけではないが、一つひとつの音にそういう意味を持たせて弾いていくと、それまでとは全く違う曲になってくる。今までやってきたことがなんて幼稚なのかと思うぐらいだ。
こうして弾いてみるとクラシック音楽の奥の深さを感じる。
うむ、新境地だな。