タイトルの「ピエタ」は、ヴィヴァルディが司祭を務めていた修道院の名前で、ピエタ修道院には大勢の孤児たちがいて、ヴィヴァルディはその孤児たちのためにいろんな曲を書いた。この辺りまでは、私も、自分の好きなバロック音楽やヴァイオリンの周辺知識として持っていたのだが、その史実をもとに、孤児やヴィヴァルディにヴァイオリンを習った富豪の娘など、彼を取り巻く様々な人の言葉から、ヴィヴァルディの生涯が語られていく。どこまでが史実でどこからが創作なのかはよく分からないが、本のページからまるでヴィヴァルディの曲が聴こえてくるような臨場感のある文章だった。
物語は、アントニオ・ヴィヴァルディがウィーンで亡くなったところから始まる。孤児といっても、45年間、ピエタ修道院に仕えるアンナとエミーリアは、富豪の娘(といっても、昔は娘だったという年齢だが)でヴィヴァルディにヴァイオリンを習ったヴェロニカに、1枚の楽譜を探してほしいと頼まれる。その楽譜を見つけるために、生前のヴィヴァルディと親交のあったさまざまな人を訪ね歩く。その人たちの言葉で語られるヴィヴァルディの生涯。司祭という職業が大方似合わない、奔放で、優しく、そして気骨のある人間像が描かれている。そしてそれがヴィヴァルディの音楽と結び付けられている。
ヴィヴァルディという、すでにこの世にいない人物を通じて結びついていくさまざまな身分、さまざまな立場、さまざまな考えの人たち。果たして、探していた楽譜は見つかるのか。
終盤に、ヴィヴァルディの妹、ザネータと、ヴィヴァルディが彼女のためにいくつもの歌曲を作った歌姫、パオリーナとの間に、こんな会話がある。
ザネータ : | 兄の音楽はもう、人々には求められてはいないんですね。兄の音楽を愉しんだ人が昔はあんなに大勢いたのに。栄光の時代は終わったということですか。 |
パオリーナ : | 何を仰るんですか、ザネータさん。大丈夫ですよ、先生の音楽は、たとえいっとき、そのような扱いを受けたとしても、必ず、蘇ってきますから。いつかまたヴェネツィア中に先生の音楽が響きわたりますよ!・・・また必ず、人々が聴きたくてたまらなくなります。 |
もちろん、この会話は史実ではなく創作なのだが、まるでこの二人が250年後の未来を知っていたかのような会話ではないか。
物語の最初と最後に、L'Estro Armonicoを合奏するシーンがある。「調和の霊感」と邦訳されているヴィヴァルディの初期の作品集だ。私が初めての発表会で弾いた6番。バヨ会で何度も弾いた1番、7番、11番。11番は私がヴィオラを始める切っ掛けにもなった曲だ。ピエタの孤児たちと同じように、私の周りにもいつもこの曲があった、思い出深い曲だ。
小説を読んで、またこの曲を弾きたくなった。
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